奈良市在住のゴー宣ジャーナリスト だふね です。
「性」と「文化」の繋がり方は国ごとで違う、それぞれの国の歴史や価値観によると前回書きましたが、今回は「エロスの表現も、時代と国ごとで違っていて面白い」という話を。
アメリカ映画『ショーシャンクの空に』(1994年)はご存じの方も多いかと思います。1947年、無実の罪でショーシャンク刑務所に服役した男、アンディ(ティム・ロビンス)が、およそ19年後に驚くべき方法で脱獄を果たす物語。
原作の『刑務所のリタ・ヘイワース』(byスティーヴン・キング)では19年ではなく27年ですが、いずれにせよ気が遠くなるほど長い年月を経ても、正気と希望を失うことなく目的を遂げた主人公の姿が、観る者の胸を打ちます。
リタ・ヘイワースとは1918年生まれの女優であり、40年代に一世を風靡。ショーシャンク刑務所の囚人たちの間でも大人気で、主演映画の『ギルダ』(1946年)が刑務所内で上映される場面もある(これは原作になくオリジナル)。
「ギルダ」と呼びかけられ、輝くような赤毛(映画はモノクロだが)の髪をパッとふり上げ、艶やかな笑顔のアップでリタ・ヘイワースが登場。そこで囚人たちは、「おぉぉーっ」と歓声を上げる。当時男たちが彼女にどれほど熱狂していたかが、わかろうというもの。暗いストーリーの中で、一服の清涼剤となっている。
アンディも例に漏れなかったようで、調達屋の囚人レッド(モーガン・フリーマン)に、リタ・ヘイワースの大判ポスターを依頼するが、これが実は超重要な伏線なのである(御覧になった人はわかりますね)。
『ギルダ』は、リタ・ヘイワースが肩を露わに、豊かな胸も申し訳程度に隠しただけのドレス姿で歌い踊り、長い手袋をゆっくりと外していくシーンが有名です。
https://www.youtube.com/watch?v=YnBmbsDan5s
『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』(2009)の中で流れるショートフィルムにも出てきます。これがまた遊び心満載で、ギルダが投げた手袋をマイケルがキャッチするVFXがスタイリッシュなのよ。
スクリーン越しに香水や白粉、汗の匂いが漂ってくるよう。妖艶だが気品に満ちた立ち姿も美しい。乳房も際どいところでこぼれない。
何の矜持も恥じらいも持たない肉体に煽られても、心を掻き乱されることはない。しかし、戯れに見せかけたキレのある動きは、一種の緊張感に満ち満ちている。
腕が少しずつ露わになるところは、固唾を呑んでしまう。私ですら胸が騒ぐのだから、当時はもっとセンセーショナルだっただろう。
「焦らされる、掻き立てられる」ことで、見る者が自らの官能を呼び覚ます。これは上手い、と感心する。
一方その頃、日本では――。
戦後すぐGHQによる間接統治が開始。映画まで管理され、許可が下りなければ制作すらできず、完成したフィルムも検閲された。
検閲は過去の作品にまで遡り、国家主義、軍国主義思想の映画は上映禁止、あるいは焼却。この状態はサンフランシスコ講和条約が締結された後の1952(昭和27)年まで続いた。
暴力や刃傷沙汰を写すことは禁止となり、時代劇も作れない。その代わり民主主義を礼賛する青春映画が多数制作された。『青い山脈』(1949年)もその一つ。主演の原節子は1920年生まれで、リタ・ヘイワースと同年代。
原節子も気高い雰囲気の美貌ですが、何と言うか、一度目にすると忘れられないですね。よしりん先生が「スクリーンいっぱいの顔」(『よしりん辻説法④美女の箱舟』P119より)と表現したように、大きな目と鼻などのパーツが醸し出すインパクト。清楚で淑やかで凛として、何ら後ろ暗いところもなさそうなイメージで、いわゆる「お色気」とは縁がなさそうにも見えるが…。
原節子は謎の多い人で、女優引退後は人目を避けて暮らし、公の場にも姿を見せなかったという。その理由も本人の口から明かされることはなく、周囲が様々に憶測したのみで終わっている。
私は、原節子は「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」(世阿弥の理論書『風姿花伝』より)、つまり「隠された物を明らかにしても興ざめしてしまう。他人に知られないことで最も効果を発揮する」を実践した人ではないかと見ている。
かつて芸の世界に身を置いていた者として己の美学を貫いたのか、たまたまそうなっただけのことなのかは不明だが、彼女は結果として「原節子」を伝説の存在にまで高めた。それは、これからも崩れることがない。
人間として、女として格好良すぎる。この生き方にも、凄まじいまでの色気を感じてしまうのは、私だけだろうか?
欧米の「退廃的な色気」か、戦後日本の「健康的な色気」か。どちらの見せ方を好むかは、各人によって分かれるところでしょうが…。
いやいや、「色気」というのは演出したところで、たかが知れている気がしますな、うん。
それよりも対面してみて、(その人でも気づかない)隠れた部分を垣間見る瞬間を、お互い感じ合える関係が最高♡ではないかと、私は思うのであります。コホン。
最後に告知です! 3月2日(土)に横浜で開催される「歌謡曲を通して日本を語る」LIVEのテーマは、ずばり「エロ」です。(す、すごい! ぐーぜん今回の記事のテーマと被ってしまった!!)
明日2月7日(水)の18時から募集開始ですので、お早めに(^^)/
また、ゴーマニズム宣言Special『日本人論』は、3月22日(金)発売!!
日本人とは何か? 日本人の現在地とつながる「文化」と「歴史」、その深さを学べる一冊です。
3月は楽しみが目白押し! 小林よしのりの歌と本が、日本を明るく照らします(*^^*)
【だふね プロフィール】
昭和48年大阪生まれ。奈良市在住。主婦にして一男二女の母。ケアマネージャー。性格は‟慎重な行動派”‟陽気なペシミスト”(友人評)。趣味は映画鑑賞。特技は、すぐ涙を流せること。令和2年「関西ゴー宣道場設営隊(現・DOJOサポーター関西支部)」隊長就任。以後、現場を持ちながら公論イベントの盛り上げにも尽力。公私ともに濃密な日々を過ごしている。
【トッキーコメント】
「エロ」や「色気」の表現や感受性も、時代により、国により全く違っているもので、これも追究していけばどこまでも広がり、深まっていきます。
この無限の世界に、どこまで踏み込んで行けるか? 興味津々です!
3月2日のLIVEも、ますます見逃せないものになってきました!